「フラクショナルCTO」という言葉に感じた違和感。技術顧問との境界線について

最近、LinkedInプロフィールの英語版を整えていて、その中で「Fractional CTO」という単語に出会った。スピーチリンク株式会社での自分の関わり方を英語で表現するときに出てきた言葉で、僕はこの単語を知らなかったのですぐにググって、「へー、なるほど。そういう概念があるのか」と思った。

その時の感想としては肯定派でも否定派でもなくて、ふーんという感じだった。だが改めて考えてみると、自分の中で引っかかるものがある。今回はそれを整理してみる。きっと賛否ある。

フラクショナルCTOとは

調べた範囲だと、フラクショナルCTOというのはざっくり「CTOレベルの関与を、必要な期間・必要な分量だけ提供する」という形態らしい。フルタイムでCTOを雇うほどではない、もしくは雇えないが、CTOクラスの判断や関与は必要な企業向け、という文脈で語られていることが多い。

日本だと近い概念として「技術顧問」「社外CTO」「スポットCTO」「CTO代行」あたりがあって、すでに乱立気味だ。そこにさらに「フラクショナルCTO」が加わる感じ。ご多分に漏れずアメリカ発の概念で、ここ1〜2年で日本でも見かけるようになってきたっぽいが僕は見たことがなかった。

「フラクショナル(fractional)」は「分数の」「断片の」という意味なので、要するに時間を分割して複数社に関わる、というニュアンス。

違和感の出どころ

定義はわかる。わかるんだけど、自分の感覚として引っかかるのは、個人的にはCTOというロールは本来オーナーシップ前提だと思っているのだが、それを時間で分割できる前提になっていることだ。

CTOはエンジニア組織と技術戦略の最終責任を持つ立場のはず。事業に対して深くコミットして、判断と結果に責任を負う役割。それを時間で分割できるというのがしっくり来ない。いや、きっと超優秀な人とかはできるのかもしれない。ただ、仮にCTO相当のことができたとしてCTOという単語がついた立ち位置を名乗るのがどうもしっくり来ないのだ。

一方で、これは自分でも少し矛盾していると自覚しているんだけど、僕は色々やりたいタイプでもある。興味の対象が多いし、金銭的にももらえるならもらいたい。なのでスピーチリンクにフルタイムでコミットするのが今の僕にとってベストかと言われると、それも違う。結果として今はDELTAという会社を自分の軸として100%やった上でプラスαとして複数のことに関わるという形を取っているし、スピーチリンクのような場合でもCTO的な名乗りはしていない。

「CTO」と名乗れるかどうか

もう一つ引っかかっているのが、フラクショナルCTOという肩書きを掲げる時の「CTO」の部分。

仮に自分が今のスピーチリンクへの関与を「フラクショナルCTO」と呼んだとして、CTOと名乗れるかと言われると、やはり違うという感覚がある。これは企業側への申し訳なさみたいな話ではなくて、単純に「CTOというロールは自分が今やっている範囲を超えるはず」という認識からきている。

スピーチリンクで自分がやっていることに当てはめても、確かにアーリーなスタートアップにおけるCTOっぽいことはしていると思う。ただ、フルタイムでコミットしていればもっとバリューは出せるとも思う。これは正直なところ。なのでフルタイムでない働き方を「これでいい」と肯定するのは、自分自身としてはなんか違う。

受け手側、つまり依頼する企業側から見ても同じことを思う。フルタイムでCTOを雇う余裕がないから、その代替としてフラクショナルCTOを選ぶ、というケースもあるんだろうけど、それって本当にCTOなのか?それは単に技術顧問でいいんじゃないか、と思ってしまう。

単なる呼称の細かい違いに対するこだわりでしかないのかもしれない。CTOという肩書きへの過剰な思い入れ、と言われればそうかも。でも、肩書きには指す範囲があって、軽くしすぎると言葉として機能しなくなる気もする。

境界線についての自分なりの整理

じゃあ何があれば「CTO」と呼んでいいのか、という話。あくまで僕の意見というか感覚に近いものだけど、

  • 経営に参画していること
  • 意思決定の最終責任と説明責任を持っていること
  • プロダクトや組織に対するオーナーシップを持っていること
  • コミットメントの総量が一定以上あること

このあたりを満たしていれば、CTOと呼んでいい気がする。逆にこれらが欠けるなら、技術顧問とか別の呼び方の方が誠実な気がする。

役員として登記されているかどうかは、以前はCTOという肩書で経営参画するのであれば会社法上の役員、つまり執行役員ではなく取締役として登記されているべきと強く思っていたが最近はそこに関してはそこまで思わなくなったかも。フォーマルな登記の有無より、実質的な関与の中身の方が重要、という考えに変わっている。

コミットメントについては、よく「単位時間あたりの質が高ければ少ない時間でも十分」みたいな話があるけど、僕はこれには少し否定的で。特にスタートアップのようなフェーズにおけるコミットメントはやはり総量だと思っている。質と時間量を掛け合わせた総量。そう考えると、必然的に時間は長い方がいいよね、という話にもなってしまう。フラクショナル前提と相性が悪いのは、ここの感覚かもしれない。そしてスタートアップ以外だと僕が言っていることは少し的外れかもしれないとも思えてきた。

現時点での落ち着きどころ

ここまで書いてきて、フラクショナルCTOという概念を全否定する気もない。世の中にこういう関わり方を求める企業もあるし、それで成り立つケースもあるんだろう。概念としては理解する。

ただ、今回の話のきっかけのように自分のプロフィールとして今やっていることをフラクショナルCTOと呼ぶかというと、やはりしっくりこない。スピーチリンクでの自分の関わりは、肩書きで言えば「技術統括」くらいでちょうどいい気がしている。CTOと名乗るほどコミットしていないし、技術顧問と言うほど距離もない。

そんなことを言いつつも、最初に話に出たLinkedInの英語版プロフィールには、結局「Fractional CTO」を採用した。日本語の語感での引っかかりなどはあるけど、英語圏ではある程度通用している言葉のようだし、自分の実態を一語で示せる便利さもあった。日本語の文脈で「フラクショナルCTO」と名乗るかと言われたら、名乗らないと思う。

そういうわけで、今のところ僕は「フラクショナルCTOという概念があるのは知ってる、英語のラベルとしては使う、けど日本語では名乗らない」くらいのところに落ち着いている。書いてて思ったがなんか僕って面倒くさいやつだなw

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