「顧客視点」だけではビジネスにならない、という話 - エンジニアが「ビジネスを意識する」とは何か -

はじめに

「顧客視点は“必要条件”であって“十分条件”ではない」

よくビジネスサイドから「エンジニアもビジネスを意識しろ」なんて言われることがあるだろう。エンジニアの間でも「ビジネスがわかるエンジニアにならなきゃ」という会話はよく耳にする。Xなんかでもよく目にする。

でも、そこで語られている「ビジネスを意識する」の中身が、どうも自分にはしっくりこないことが多い。今回は、エンジニアがビジネスを意識するとは結局どういうことなのか、自分なりの考えを整理して書いていく。いわゆる、ポエムだ。これ以降でエンジニアという言葉はITのエンジニアを指す。

ちなみに自分はどういう立ち位置の存在かというと、ずっとエンジニアをやってきて、ここ最近は本職としてビジネスサイドだけをやっている。ただし、今も個人の活動として少しだけエンジニアリングにも携わっている。どんな人なのかについてはXをフォローしてくれるといい。

「顧客視点」はビジネスのゴールではない

よくある話として、「バリューストリームマッピングが〜」とか「顧客にとって本当に必要なものは何かを考える」といったことが「ビジネス意識」だと言われるケースが多いだろう。

でも残念ながら、顧客視点で開発するだけではビジネスをしているということにはならない。 「顧客価値の向上 ≠ 売上最大化」だ。

確かに顧客視点は大事だ。だが、それ“だけ”でビジネスになるかというと別の話だと思っている。顧客価値の最大化は必要条件だが、十分条件ではない。じゃあエンジニアにとっての「ビジネス意識」とは何なのか。

ビジネスとは、極論を言えば「お金儲けをすること」である。儲けを得るためにはまず最初に売上をあげる必要がある。では売上を上げるための視点とは何か。良いものを作る、使われるものを作る、提供しているものを多くの人に知ってもらい、送り届ける。いろいろあるはずだ。

でも「顧客に良いものを提供する」「安定したシステムを提供する」。これらはエンジニアという仕事をしている人としては当たり前のことであって、あえてビジネス意識として掲げるようなものではないと考えている。

顧客のことを考えないプロダクト作りは単なる趣味と同じだ。売上の立たないものを作るのも趣味でやればいい(もちろん例外として必ずしも「売上」が立つわけではないOSS開発や社内システムの開発といったものもあるが)。今の時代、AIの開発のためにGPUぶん回すとかを除けばアプリケーション開発そのものにかかるコストなんてほとんどない。ちょっといいPC買っても100万もしない。主にかかるのは自分たちの工数(人件費)だけだ。だからこそ、ビジネスにならないものを作るのは仕事ではなく趣味の領域だと思っている。だが、これはこれで否定しない。

本当の意味でビジネスを意識した行動とは

多くのプロダクト開発では、正直なところ実装だけなら誰でもできるようになりつつある。もちろん例外はが、今は生成AIもあるし、差別化要因としての実装は相対的に弱くなっているとも言えるかもしれない。そんなご時世においてエンジニアに求められているのは、単にコードを書くことではない。

自分が思う「ビジネスを意識したエンジニアの行動」は、これに尽きる。 「売上を増やすためにできることを考えて行動すること」だ。

自分が言いたいのは「顧客を増やせ」だけではない。売上はざっくり言えば「顧客数×単価×継続」だ。エンジニアがビジネスを意識するとは、このどれを動かすのかを自分の仕事として引き受けることだと思っている。つまり、「売上のレバーのどれかを動かすこと」だ。

これは「営業に行ってこい」と言っているわけではない。例えば以下のような行動も、立派なビジネス意識に基づいたエンジニアができることだと思っている。

  • Xでの発信や登壇を通じて認知を広める
  • プロダクトの質を高めるだけでなく、「認知」を増やすために何ができるか考え実行する
  • 営業パイプラインを作るためにエンジニアとして手助けをする
  • 売上や利益率改善にどう貢献できるか考え実行する

プロダクトが売れるためには、質が良いだけでは不十分なのは周知の事実だ。どんなにいいものを作ってもまず知ってもらわなければならない。その上で顧客となり得る人を探し、自分たちのプロダクトの価値を伝える必要がある。そのために自分ができることが何かを考えて動くこと。これこそが本質的な意味での「ビジネスを意識した行動」ではないか。

エンジニアの「性(さが)」との向き合い方

エンジニアは技術に対して欲深い生き物だ。新しい技術を使いたくなるし、ついつい新しい機能を実装したくなる。

でも、それはエンジニアの「性」でしかないという自覚も必要だ。その技術や機能が「本当にお客さんにとって、あるいはプロダクトにとって必要なのか」を立ち止まって考える。

技術的な興味を優先させすぎず、プロダクト視点で判断する。もちろん、エンジニアなら当たり前にすることかもしれませんが、この「抑制」もビジネス意識の一部だと言えます。

果たして本当にエンジニアはビジネスを意識したほうがいいのか

ここまでいろいろ書いてきたものの、全員がビジネスを意識する必要はないとも思っている。心底興味がない人もいるだろう。自分がここで言いたかったのは「エンジニアもみんなビジネスを意識しろ」ではなく、ポジションやレイヤー的にそういうことを求められたり、エンジニアとして人と差をつける材料としてビジネスを意識するっていうなら、それはこういうことなんじゃないのってことだ。

まとめ

結局のところ、エンジニアが嫌いがちな「営業的な視点」や「パイプラインをどう作るか」という部分にまで踏み込み、顧客を増やすためにやれることをやる。これが自分の考える、本質的な「ビジネスを意識する」である。

「自分はエンジニアだから開発だけしていればいい」という枠を超えて、どうすればこのプロダクトが世の中に広まり、売上が上がるのか。そこまで自分事として考えられるエンジニアが、これからの時代もっと求められるんだろうなーとも感じている。

例えるなら、それは、単に「美味しい料理を作るシェフ」で終わるのではなく、「どうすればこの店に予約が入り、お客さんが笑顔で帰ってくれるか」を考えて、SNSで発信したりメニューの価格帯を練ったりする「繁盛店のオーナーシェフのような視点を持つことに似ているだろう。

ここまで書いてきたが、「むしろ当たり前」だと思う人もいるだろう。皆さんの環境では、エンジニアのビジネス意識ってどこまでを指しているだろうか。

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