
- はじめに
- きっかけ —技術者として、人間として
- 同窓会イベントでの再会、そして僕にやれること
- 生成AIによる可能性とスケールの実現
- プロジェクト立ち上げと、本質的な挑戦、開発の現状
- クラウドファンディング、残り1日の戦い
- 最後に
はじめに
この記事では、僕が個人的に関与しているプロジェクトについて語らせてください。
僕は普段は渋谷にある会社のCOOをしていたり、犯罪を予測するというテクノロジーを持つスタートアップのCTOをしたりしています。
Xでも何度かつぶやいているので知っている人もいるかも知れませんが、あらためて紹介するとともに「なんでやるのか」という自分自身の想いとともに言葉にしてみます。
【拡散希望】開発に関与しているプロジェクトのクラファンが始まりました。AWS時代の同僚が自身の経験をもとに立ち上げたもの。苦しむ人が多くいることを知り自分の知見が役に立つならと手伝ってます。法人枠もあります。
— Keisuke Nishitani (@Keisuke69) 2025年3月23日
失語症の方のためのトレーニングアプリを開発したいhttps://t.co/Hr8a6VuCyV
このプロジェクトは、失語症患者の社会復帰を支援するためのリハビリアプリの開発です。 名前は『Speech Link』と言います。
先月から資金をクラウドファンディングで募っていて、終了まであと1日。当初目標は達成しているものの、ネクストゴールの達成まであと一歩ということもあり最後のお願いも込めて、この記事を書いています。
失語症の方のためのトレーニングアプリを開発したい|For Good|手数料0%のクラウドファンディング
きっかけ —技術者として、人間として
きっかけは、元同僚である友人との再会でした。
彼の名前は石渡さん。 クラファンの募集ページにも出ている彼です。
彼との関係性を伝えるとAWS時代の同僚です。彼はデベロッパー/スタートアップマーケティングとして、そして自分はソリューションアーキテクトとして関わってきました。
彼とのやりとりで一番思い出深いのは『AWS DevDay Tokyo 2018』です。このイベント自体の詳細は過去のブログに書いてあるので興味あれば見てみてください。このブログで『半分ノリで1週間くらいやっちゃうかってデベロッパーマーケティングの人と盛り上がった』そのデベロッパーマーケティングの人が石渡さんです。
AWS DevDay Tokyo 2018というイベントを開催します! - Sweet Escape
AWS DevDay Tokyo 2018を開催しました & 資料まとめ - Sweet Escape
このイベントはある意味前例のないもので、いろいろとかなり大変だったのですが一年近くかけて、石渡さんと準備をし一緒に創り上げました。
1週間連続開催という狂気の企画。当時のAWS目黒オフィスを熱気と創造性で満たした、今でも鮮明に覚えているプロジェクトです。
※ ちなみに上記のブログには公開されているセッション資料もあるのですが錚々たるメンツでした
石渡さんは、発想力だけじゃない、圧倒的な実行力を持つ人でした。 心配になるくらいめちゃめちゃ働く。
「いいじゃん!やろう!」と言ったら、その日のうちに動き出す。周囲を巻き込みながら不可能を可能にしていく。 そんな人でして、僕自身も彼のその姿勢から多くを学び、影響を受けました。
そんな彼が、ある日突然、脳卒中で倒れたということをFacebookで知ります。このときは確かもう石渡さんはAWSは退職していました。高齢というわけでもない身近にいた人が脳卒中で倒れるということに少なからずショックを受けると同時に非常に心配もしました。
そしてその影響で失語症になり、言葉を失ったということを知ります。
『言葉を失う。』
多くの人を言葉の力で巻き込み、動かしてきた彼が言葉を失ったという現実は個人的には結構来るものがありました。
しかし、石渡さんはやはり石渡さんだったんですよね。彼は諦めなかった。諦めるという選択肢すら持たなかったのかもしれません。
言葉を取り戻すために治療を諦めずリハビリを懸命に続け、少しずつ、しかし確実に、再び言葉を取り戻していったのです。 さらに新しい手法も含めたいろんなリバビリに挑戦し、その様子をアウトプットもしています。この姿には大きな衝撃とともに感銘を受けました。それは、同様の境遇にある多くの方々を勇気づける行動だと感じました。
僕はそんな姿をFacebookやこのことをきっかけに始めた彼のブログでしか見ていないのですが、その裏側にはとてつもない苦労と努力があったであろうことは想像に難くありません。
このとき、彼がシェアしたとあるクラウドファンディングに支援したことを記憶しています。そのクラウドファンディングをやっていた多田さんは今回のプロジェクトにも重要人物として携わっています。
同窓会イベントでの再会、そして僕にやれること
昨年、僕はAWSの卒業生の大同窓会を企画しました。 多くの旧友との再会を楽しみにしていましたがその中にはもちろん石渡さんも含まれていました。コロナ禍だったことやそもそも実際のところ体調面含めてどういう状況かわからなかったので彼のAWS退職以降リアルな場では会うことはなかったのです。
当初は「スケジュールの関係で来られないかも」と聞いていました。
でも、奇跡的にスケジュールが調整できたようで、彼は会場に来てくれました。
そして、数年ぶりに会った石渡さんは——。
想像よりもずっと言葉を取り戻していた。
僕は回復がとても嬉しいこと、そしてポジティブで前向きなその姿勢が同じ状況下にある多くの人に勇気を与えていると思う、みたいなことを言ったと思います。
いろいろ話す中で彼はこう言いました。
「同じように失語症で苦しむ人たちのために、リハビリを支援するアプリを作りたいんだ。生成AIが出てきてそれが可能になる気がしている」
迷いなく、言いました。「良かったら手伝わせてくれ」と。
これは単なる同情ではない。
いろんなところで折りに触れ言っていて、以前ブログにも書いたんだけど、「社会に貢献できるプロダクトを作りたい」「自分の知見が何かしらの役に立つならば」という思いがあります。
そんな思いを抱えていた僕にとって、これ以上ないほど意義のあるプロジェクトだと思いました。
彼はマーケティングの人間です。聞けば実際の開発周りをやる人はまだいないとのこと。ということで手伝うことにしたのです。
本来は僕自身がガッツリ手を動かせるのが理想なのですが、いくつか抱えていることもあり現実的にはそこまではできません。なので人集めも含めや開発の方向性など技術的な意思決定も含めたディレクションの立ち位置で関わることになりました。
生成AIによる可能性とスケールの実現
脳卒中の新規発症者だけでも年に約29万人ほどで、そのうち約4.9万人が失語症になるそうです。
そして、これは僕も知らなかったのですが失語症は本来数年にわたって回復するものなんだそうですが、一方で病院で受けられるリハビリは半年と期限付きなんだそうです。そうするとその後のリハビリをどうしていくのかという課題があるわけですね。
そんな中でこのプロジェクトの核心にあるのが、生成AIの可能性です。
AIが失語症患者に寄り添い、
会話トレーニングを提供し、
その結果を専門家の評価基準に基づいて自動的にフィードバックする。
失語症のリハビリには継続的な会話練習の機会が必要ですが、場所、練習法、機会などの観点での課題があります。また、言語聴覚士(ST)という専門家が圧倒的に不足しているという課題もあります。
つまり、専門職である言語聴覚士のリソースには限りがあります。一方で、失語症の患者さんは多く、様々な理由で十分なリハビリを受けられない方もいらっしゃいます。
これを生成AIを活用することで解決していきたい。
注意してほしいのは、これは「人間の代替」ではないということ。 つまり、言語聴覚士という専門家を生成AIで置き換えるというようなことは目指していないということです。
AIは人間の限界を補い、より多くの人がリハビリ機会を得られる世界を作るための道具です。
実際に言語聴覚士によるリハビリセッションの予約機能なども搭載する予定です。AIと人間の言語聴覚士によるリハビリ、どちらも重要だと考えていますし正直現時点の性能では完全代替することは難しいとも考えています。
個人的に生成AIの活用は今まで人間がやっていたことを一部代替することで、これまでの人的リソースではキャパの問題でできなかったことをできるようにするという、つまり人間のやれることをスケールするということに意味があると考えています。
多くの企業で生成AIに期待されているような業務効率化やそれにともなう人員削減みたいなものではなく、人類にとってポジティブな方向に活用したい。
ソフトウェアの開発においても、僕は常に「技術が人の可能性を広げる」ことを信じています。
このプロジェクトは、その信念の最も純粋な形の一つといえるかもしれません。圧倒的に不足している言語聴覚士によるものを生成AIの力で一部を簡易的に提供することでリハビリ機会が増える、スケールできるのです。
プロジェクト立ち上げと、本質的な挑戦、開発の現状
とはいえ、開発内容は想像以上にチャレンジングです。生成AIでどこまでできるのか。
石渡さんとの会話を何度も重ねながら、僕たちは最適なアプリケーションの形を模索します。
モバイルアプリにするか、Webアプリにするか。開発リソース、コスト、スケジュール、ユーザー体験、すべての要素を現実的に見つめ直しながら、判断を下していきました。
結果として、まずはWebアプリでスタートすることを決断。
理由は明確で、最初からマルチプラットフォーム対応を完璧にやり切るリソースがなかったからです。 今やReact NativeやFlutterを使えばiOS、AndroidだけでなくWebアプリもワンソースで書けることは知っています。理論的には。でも経験上、現実的には細部の調整にかなり手間が取られます。
また、それをやれるソフトウェアエンジニアを探すことのハードルもあがります。 それよりは今ある限られたリソースを最大限に活かし、まずは価値あるプロダクトを世に送り出すことを優先したのです。
開発メンバーとしては、SESをやっているとある上場企業が新卒の新人教育として現場の開発を学ぶために社会貢献性の高いプロジェクトに限定して一定期間無償で手伝ってくれるというプログラムがあり、その恩恵を授かる形で開発はスタートしました。
参考までに技術スタックは、以下の通りです。とはいえ、現時点ではごくごくシンプルな構成になっています。
- フロントエンド:TypeScript、Next.js —— これは定番ということで
- バックエンド:Firebase(Firestore / Authentication) —— バックエンドAPIの実装を避け、スピード重視で運用コストを抑えたかったので
- CI/CD:GitHub Actions —— これも定番。シンプルかつ効率的な自動化のために
- Webアプリケーションホスティング:AWS Amplify Console —— Vercelなどの選択肢もあったがクレジット等も睨んで特に強い意志もなかったので
- 生成AI:OpenAI API —— このプロダクトの肝の部分。Claudeなども検討したものの、最終的にOpen AIに。ただ、ここは今後の実装状況やクレジットの関係とかでAzure OpenAI Serviceに移行することも想定している
技術選定においても「理想論」ではなく「現実解」を重視しました。
完璧を目指すあまり、リリースが遅れることの方が、はるかに罪深いので。
また、途中からは自律型AIエンジニアであるDevinも使い始めています。
これらに加えてプロダクションリリースに向けて必要なツールやSaaSなどを追加していくことになるでしょう。
開発の現状
開発については、正直なところ現在、難航しています。主な理由はエンジニアリソースの不足です。
前述した新人研修の一貫として数名が手伝ってくれていましたが、案件にアサインされることが決まった人は抜けて別の人が代わりに参画するというこのプログラムの特性上、中長期で安定的なベロシティを実現することが難しかったのです。そのため体制を見直す必要が出てきました。
先日、業務委託のエンジニア募集を行ったのはそのためです。幸い、応募してくださった方々の中で良い方と巡り合うことができ、現在は開発が進んでいる状況です。
また、コアな機能の部分以外はDevinを活用する形で進めています。
クラウドファンディング、残り1日の戦い
2025年3月24日に始まったクラウドファンディングは多くの方々のおかげで、終了まで10日ほどを残して当初の目標だった200万円を達成することができました。 支援してくださった皆さん、本当にありがとうございます。
また、これを機にこのプロジェクトは多くのメディアにも取り上げられています。共同通信社を通じて全国の新聞社に配信され、23都道府県の地方紙を含む、合計35のメディアに取り上げていただいています。
AIで失語症リハビリ、東京 社会復帰支援へアプリ提供計画 (共同通信)
その他にも、
失語症支援プロジェクト立ち上げ 勉強会開催やリハビリアプリ開発も(福祉新聞) - Yahoo!ニュース
失語症リハビリ 足りぬ専門職…「180日の壁」退院後の機会乏しく : 読売新聞
失語症の人に「話す力」を取り戻す支援 言語リハビリの〝空白〟を埋めるオンラインの挑戦 | 週刊大阪日日新聞
元ITマーケターが失語症リハビリ支援アプリの開発プロジェクトを始めた理由 - @IT
しかし、ここで立ち止まるわけにはいきません。
現在、ネクストゴール350万円に挑戦中です。
そして、クラファン終了まで、残り1日しかありません。
正直に言います——このラストスパートが最も重要です。
このネクストゴールを達成できれば、アプリの機能も大幅に向上でき、より多くの人に届けられるようになります。
実現したいことは、まだまだたくさんあります。 それを形にするために僕たちももちろん努力するのですが、どうか力を貸して欲しいです。
最後に
最後に、個人的な話をもう少しだけ。
僕はこれまで、いくつかのプロダクトやサービスの開発、事業に関わってきました。
社会には、テクノロジーの恩恵を最も受けるべき人たちが、逆に取り残されている現実があります。
失語症患者のように、言葉を失った人たちは、デジタル社会の中で二重に孤立してしまう。
そこにこそ、僕のような技術者が全力を注ぐべき領域があると信じています。
時に「技術の進化」と「人間らしさ」は対立するように語られます。
しかし、このプロジェクトはその矛盾を超えて、「技術によって人間らしさを取り戻す」プロジェクトといえます。
それが、この「言葉を、もう一度。」の本質なのです。
このプロジェクトが実現すれば、失語症の方々のリハビリの選択肢が増え、社会復帰に向けた大きな一歩となる可能性があります。
まだネクストゴールの達成にはもう少しです。ぜひ、皆様にもこのプロジェクトを応援・支援していただけると嬉しいです。
