『エンジニア組織を強くする 開発生産性の教科書 ~事例から学ぶ、生産性向上への取り組み方~』を読んだ

昨今よく言われる開発生産性について書かれたというこの本を読む機会を得た。 著者の佐藤さんはFindy社のCTOであり、最近のFindyはこの文脈のムーブメントの火付け役の一つである認識。ちょっと前に開催された開発生産性カンファレンスも昨年に引き続き、いや昨年以上に好評だったようでこの分野は盛り上がりを感じる。

さて、この本はその「開発生産性」について、そもそも開発生産性とは何か、定義だけでなくそのレベル分けやなぜその向上が必要なのかといったことを適宜先達の文献などを引用しつつ丁寧に解説していく。

これだけ丁寧かつ体系的に「開発生産性」について語られることってなかなかないのでは?

また、その向上についてもいろんなパターンの阻害要因とそれに対する対策が例示されている。

加えて、この文脈でよく言及されるFour Keysに代表されるパフォーマンスメトリクスについてもその詳細と実際の開発現場で使えそうな具体的な指標が例示・解説されている。

さらに阻害要因とそれらへの対策もそれぞれ簡単に述べられているのだがその数が多く色んな視点のものがまとまってるのは良いと思った。

一方で対策として挙げられているものについては実際のところその組織やプロダクトの状況によって異なることが多いので『正解』を示すのは難しいだろうなぁという感想。どうしても具体的にズバリの回答を示せないというか。

指標の選択と計測について、計測した結果が事業にどれだけ貢献したかってのは本当にそう。 またパフォーマンスを測るための指標としてまずFour Keysの各項目をブレイクダウンして解説。各項目の意味や、留意点、計測方法だけでなくその改善方法についても言及されている。

ただし、Four Keysは有用なものの万能ではないとし、PR作成数やCI/CDの実行時間などその他の指標についても書かれている。 また、開発プロセスにアラインする形での指標についても複数紹介し解説されているのも良い。

そんな感じで終始語られているのは開発生産性向上の重要を理解してもらうことなんだけどこれがまさに本質だと思ってて、それを理解してもらうのに本書は良いのではないか。

後半はFindy社自身を含む各社の事例が詳細に語られている。この事例もいわゆるWeb系だけでないのが良い。特にクラスメソッド社のようなクライアントワークを主体とする企業における開発生産性への取り組みについての事例は珍しいのではないか?

最後にAppendixについて。もはや本編なのでは?ってくらいAppendixにしては量が多い。とはいえLLMと開発生産性の話だったり開発生産性向上のためのツールとしてのFindy Team+の紹介だったりと全体の流れに沿わないからAppendixとしてまとめたのだと思われる。

筆者は本書内で「開発生産性はエンジニアリングだけではなく組織全体で取り組む課題」、「開発生産性を追求しすぎないように注意する」とも言っていて本当にそうだよなぁと思いつつ特に前者を組織全体に理解してもらうのがなかなか大変だろうなーとも思う。

最後にまとめると、最近よく聞く「開発生産性」とはどういったものなのかを知り、自社で取り組み始める第一歩として良い本ではないか。

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